恋まであと100

 

 NLオリジナル小説

 

授業中に見る彼は眠そうで、私はくすりと笑って教授に視線を戻した…




 

「最低男!!死ね!!!」


 

"バシッ"


 

その声と音に私は、足を止めた……

そしてそのすこし後に、女性が曲がり角からこちらへ歩いてきたので、今の怒声は彼女なのだろう……



 

私はとりあえず数歩進んで、角を曲がった

自販機にジュースを買いに来たのだが、運悪く修羅場と呼ばれる現場に遭遇したらしい……


 

角を曲がって一番初めに目に飛び込んできたのは、男物のスニーカー

顔を上げ、その人を確認すると、彼は私のよく知る人だと気がついた



 

「あれ?尊(みこと)ちゃんじゃん!やほっ!」


 

軽いノリで話しかけてきた彼の頬は赤くなっている…

先ほどの乾いた音の正体はこれだったのかと納得した…



 

「…ども」

短く返事を返し、彼の横を通り過ぎ自販機の前にたつ


 

「あー飲み物買いに来たのか…最近じめじめってしてて暑いしねー」


 

「…うん」


 

私に話しかけてくれてる、というただそれだけで緊張してしまい、上手く会話が出来ない…

それでも彼は、ニコニコと笑っている……


 

そういう男なのだ…彼、大谷 要(おおたに かなめ)は……



 

誰にでも分け隔てなく接して、みんな平等……


 

つまり、彼には特別な人は居ない………………そう思っていた


 

でも違った……彼には、ちゃんと特別な人が居たのだ……

私が知らなかっただけ……


 

私は、ちらっっと大谷の顔を見た……

目が合うと彼は微笑む……


 

視線を自販機に戻して、私はぶどう味の炭酸ジュースとオレンジ味の炭酸ジュースのボタンを押した


 

ガコンガコン


 

二つの缶が落ちる音がした……


 

レバーをまわし、おつりを受け取る



 

そして、二つのジュースを手に一瞬悩み、オレンジ色の方を彼に差し出した……



 

「ん?なに?もしかして、くれんの?」


 

それにこくりと頷いて


 

「頬冷やすのに使って…結構目立ってるから」


 

大谷はすこし驚いた仕草を見せたが、素直に受け取ってくれた……



 

私はわずかに固くなっていた体の力を抜いた………



 

「ありがとう。優しいね、尊ちゃん」


 

「……べつに、それじゃあ」


 

にっこり笑って言われたお礼に、顔が熱くなるのを感じて早々にそこから立ち去る……



 

どうせ次の授業は同じ……


 

だから後5分後には会うのだけれど、今のこの二人っきりという状況から逃れたかった……



 

「うん、じゃあまた後でね」


 

背中に届いた声は私の中に浸透していき、ぽかぽかと温かい気持ちになった……









 

「うーーーーわーーーー!!まじ、可愛い…やばいだろ、あれは」


 

顔を赤くして、壁に背を預けて座り込んだ青年が一名、自販機の前の廊下に居た……



 

好きな人ができたからと彼女に別れを告げた直後に遭遇した、尊……


 

戸惑ったように、遠慮がちに差し出されたジュース……


 

心配そうに見上げられた瞳……



 

「思わず、抱きしめそうになった………」



 

いつも遠慮がちに送られる視線……

それは、嫌悪感なんて抱かないとても心地良い視線だった……


 

誰が送っているのだろうと探し、たどり着いたのが尊………



 

いつの間にか彼女を好きになってた……

だから、恋人に別れを告げたのだ………



 

手に持ったジュースについた水滴が手首を伝う………


 

プシュっと音を立て空いたジュースを一気に飲み干す……



 

授業が始まるまであと3分……


 

授業が終わるまであと93分……




 

お互いが両思いだと知るまであと100分………




 

END

 

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